嬉野温泉から学ぶべきこと
静岡県議会文化観光委員会の県外視察2日目は、長崎市から『西九州新幹線』に乗って、佐賀県の嬉野温泉(嬉野市)に行きました。。昨年9月、令和になって初めて開通した西九州新幹線は… 佐賀県武雄市の武雄温泉駅と長崎県長崎市の長崎駅を結ぶ、九州旅客鉄道(JR九州)の日本て一番短い高速鉄道路線(新幹線)です。
福岡市(博多駅)と長崎市(長崎駅)を結ぶ整備新幹線計画(九州新幹線〈西九州ルート〉)のうち、武雄温泉駅~長崎駅間の66kmが『フル規格新幹線』として先行整備(=暫定開業)された形ですが…肝心の武雄温泉駅以東への延伸は、ルートやレールの規格、整備方式や佐賀県の費用負担をめぐって様々な問題が続出し、現在は完全にストップしています。
そのため現在は、武雄温泉駅で在来線と新幹線を対面乗り換えで乗り継ぐリレー方式で運行されていますが…乗り換えまでの最新の新幹線車両が、ゆったりとしたスペースで設計された快適な列車なのとは対照的に、乗り換え後の従来線の特急電車は、座席も通路もとても窮屈な古い車両なのが、実に残念でした。
この問題が進展しない最大の理由は、2008年の着工当初には、新鳥栖~武雄温泉間では在来線を活用し、軌間の異なる在来線(狭軌)と新幹線(標準軌)を直通できる軌間可変電車(フリーゲージトレイン)を導入する方針だったのに…JR九州が「車両や保守費用が割高であり、技術的にも軌道負荷過大などの問題解決の見通しも立たない」として、フリーゲージトレインの導入を途中で断念。。全線を新幹線のフル規格での建設方針へと舵を切っただけでなく、佐賀県にも応分の負担を求めたことに、佐賀県の山口祥義(よしのり)知事が大激怒したからなのだそうです。
どこかの知事もそうですが…良きにつけ悪しきにつけ、未だに〝親方日の丸〟的な偉そうな体質を引きずるJRと、強力な権限と影響力を持つ地方自治体の首長の対立は「重要な事業を停滞させ、結果的として国民・県民に大きな不利益を与えてしまうのだなあ…」という思いをさらに強くしました。
さて、本日の嬉野市での視察研修では…①一般社団法人 嬉野市観光協会と②佐賀嬉野バリアフリーツアーセンターの2つの組織のトップから、斬新で異色で先進的な取り組みを詳しくご説明いただくことができました。
嬉野市観光協会の松本泰宏事務局長からは「観光物件、自然、食、芸術・芸能、風習、風俗など当該地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人」である『地域DMO』の重点的な取り組み現状や実例を伺いました。
国内有数の重曹泉であり「日本三大美肌の湯」と称賛される嬉野温泉を若い女性のターゲットに絞った広報、誘客戦略であったり、江戸時代からの特産品である大豆から作った豆腐を、温泉水で煮立てスープ状にして食べる有名な地域グルメの湯豆腐の食べ歩きを前面に打ち出してのツアーなどの特色ある戦略をご説明いただきました。地域の風習や食文化のストーリーを膨らませ、独自の観光コンテンツに仕立てることの大切さを理解できました。
午後からは『佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター』の小原健史会長から「バリアフリーによるユニバーサルツーリズムに対応した観光地づくり」という、今まで聞いたことも想像したこともないテーマの観光促進策をご教授いただきました。
急激な少子高齢化が進む日本社会の中で、全人口の39%(4870万人)を占める「高齢者(3630万人)」「障がい者(940万人)」「3歳未満の幼児(300万人)」をターゲットにして「地域全体にバリアフリーを徹底させるというユニバーサルデザイン(UD)を推し進め、他の温泉地との差別化を図り、最大の売りとして観光振興に繋げる」という大胆な戦略で、驚異的な成果を見せている実例を、熱く丁寧にご説明いただきました。
市内の温泉施設や旅館やホテルを指導して、高齢者や障がい者に優しいバリアフリーの環境を実現。彼らや家族のニーズにマッチした宿泊案内や「入浴補助」等のプランの作成や車イス等の機材の貸し出し。そして、市内の小中学校や公民館等での「心のバリアフリー教室」や障がい者スポーツ大会の開催等、さまざまな企画やイベントを実現させた努力が実り、近年は「国土交通大臣表彰」や「観光長官表彰」「観光経済新聞社の特別表彰」を受賞。楽天トラベルの「シニアに人気の温泉地」には5年連続で選ばれたそうです。
「バリアフリーは、もはや弱者である高齢者や障がい者への〝配慮〟ではありません。21世紀の世界標準であり、この社会の〝前提〟なんです」「バリアフリーを徹底させることは、ボランティアではありません。ちゃんとビジネスに裏打ちされています。特に、障がい者は、1人では温泉には来ません。家族やヘルパーさんたちと一緒に来る。だからビジネスにつながるんです」という小原会長の熱弁に目から鱗が落ちる思いでした。
日本を代表する温泉県、観光県である我らが静岡県も、これから真剣に取り組むべき重要なテーマであると痛感しました。