JR東海への県の回答書です
さる6月29日、JR東海宇野副社長から静岡県中央新幹線対策本部長である難波副知事宛に以下のような〝質問状〟が届きました。(一部割愛及び要約)
<中央新幹線南アルプストンネル(静岡工区)におけるトンネル掘削の前段で行うヤード整備の可否について>
6月26日の弊社(金子)社長と貴県の川勝知事との面会において、知事から「ヤード整備を行うとなると、これまで進めてきた作業員宿舎等の整備と合わせ、改変面積が5ha以上となるため、静岡県自然環境保全条例第24条に規定する『自然環境保全協定』の締結が必要である。整備を認めるかどうかは、協定締結の可否によって判断する」とご回答いただいたことから、当方としては「速やかに協定締結の準備を整えることによって、本件ヤード整備を進めることは可能ではないか?」と受け止めました。
これに対して、その後の報道等によれば、貴県の事務方から記者団への協定についての説明の後、知事は記者の質問に答えて、本件ヤード整備の内容である、濁水処理設備等の設置、坑口予定箇所の整備等については「トンネル本体工事と一体であり、一切認められない」旨の説明をされた、とのことであります。
協定を速やかに締結し、本件ヤード準備を進めることについて、それが困難であること及びその理由について、書面でご教示いただきたいと存じます。
本件ヤード整備に今月中に着手できるか否かは、社長から知事にお願いしたように、弊社にとって、中央新幹線(品川・名古屋間)の開業が2027年に間に合うか否かにかかわらず、極めて重要な意味を持つものであり、今後の対応も必要となることから、誠に恐縮ですが、今週末の7月3日までに、ご回答いただくようお願い申し上げます。
これに対し、静岡県は難波副知事名で宇野副社長宛に昨日、以下のような内容を文書で回答しました。(長文のため要約)
①自然環境保全協定の対象となる開発行為の考え方
・「静岡県自然環境保全条例」によれば、協定は1つの開発行為ごとに締結することになっている。
・本件のような「施設用地の造成」という開発行為に対しては「a.施設を整備するのに先立つ調査等のための用地造成」と「b.本体施設整備のための用地造成」の2つを一体の開発行為とみなすか? 別の開発工事とみなすか? の判断が必要となる。
・条例施行規則の規定により、1つの開発行為において、事業者が「5ha以上の開発行為をする予定であれば…」当面の工事面積が5ha未満であっても、当面の工事の着手前に「協定締結が必要である」と解される。
②これまでの経緯
・今回のリニア新幹線トンネル工事は…「活動拠点整備工事」と「トンネル掘削工事」の2つに区分できる。
・静岡県は、貴社とご相談の上、この2つの工事は、別々の開発行為としてすでに判断している。
・「活動拠点整備工事」は、宿舎用地等のヤード造成を行うものだが、JRからその内容と規模を伺った際、面積は「4.9ha」であったため、協定の締結が必要な「5ha以上」に満たないとして協定は不要とした。
・一方、今回の「トンネル坑口整備」や「濁水処理施設」の設置のためのヤード工事は、明らかに「トンネル掘削工事」の一部であるのでトンネル本体の工事として協定を締結する必要がある。
③今後の開発行為の協定上の取扱い
(1)「活動拠点整備工事」の追加工事
・当初計画では4.9haと伺ったので、協定は不要としたが…今後、予定していなかった追加工事の必要が生まれ、面積が5ha以上なる場合は、協定の締結が必要となる。
(2)「トンネル掘削工事」
・今般、整備を進めたいとしている「トンネル掘削の工事の前段階で行うヤード工事」において…「導水路トンネル等の坑口整備」は、トンネル本体の掘削工事そのものでる。「濁水処理施設や換気設備の設置のためのヤード工事」は、トンネル掘削で発生土砂や水を処理する施設設置のためなので「トンネル掘削工事」についての協定の中に、盛り込むことが必要となる。
④今後の協定締結手順
・協定は、工事着前に締結する必要がある。
・その際には「自然環境保全計画書」を策定する。
・計画書には、あらかじめ法律・条例に基づく環境への影響の回避・低減・代償措置を検討、決定して記載する。
・協定は、その計画書の内容の着実な実行を静岡県とJRで約束するものである。
・トンネル掘削工事が環境に与える影響については、現在、国土交通省の有識者会議において「引き続き対話を要する事項」の47項目の議論が行われている。
・有識者会議等での最終評価後に「静岡県中央新幹線環境保全連絡会議」において必要な「環境保全措置」が決定し、協定締結に至る。
⑤結論
・国の有識者会議や県の専門部会において、環境影響に関する検討が続いている現状において、県としては「自然環境保全計画書に盛り込む環境保全措置は未定であり、協定を締結する状態には至っていない」と判断する。
⑥その他
・「地質調査」や調査に必要な整地、災害復旧のための河川護岸工事など「トンネル掘削工事」の一部でないものについては、必要な手続きの下、協定の締結なしで着工することには問題はない。
26日の川勝知事とJR金子社長のトップ会談の時も感じましたが…以上の2つの文書の内容を比較すれば…静岡県の言い分の方が「圧倒的に正しい!」ですし…「もはや議論の余地もない」ようにも見えます。。
しかし残念ながら、大井川流域の住民やこの件の経緯や真相を知る県民を除けば…リニア沿線の都県はもちろん、日本全国で静岡県の立場や考えが、理解や支持をされているとはとても言えない状況です。
実際、静岡県からの回答を受けて、JR東海はさっそく「静岡県の返答のせいで、2027年のリニア開通は不可能になってしまった」というトーンで、今まで以上にはっきり喧伝し始めました。国土交通省も東京のマスコミもJR寄りです。回答の送付は日中だったのに、NHKは21時台のニュースで〝速報〟として、この話を以下のように簡潔にして取り上げました。
「リニア中央新幹線の工事をめぐり静岡県は3日、JR東海が着手を急ぐ準備作業の開始は認められないという見解を示しました。目標としていた2027年の開業の遅れは避けられない見通しで、会社は疑問点について、さらに県に問い合わせるとともに『今後、国土交通省と協議したい』としています」
この期に及んでも、上から目線で自己中心的なJR東海に、妥協する必要は絶対にありません。ただ、静岡県だけが頑なに狭い舞台で、どんなに正論を主張しても…このままでは他の都県での工事は進むし、静岡県は世間からどんどん悪者にされるでしょう。JRには、すでに開業遅れの〝A級戦犯〟にされてしまいました。
では、これから我々は、何をしたらいいのか? どう立ち回ればいいのか? 川勝県政の今後の対応と戦略を質すため、明後日、危機管理くらし環境委員会で質疑に立ちます!